歩みは止めない。
昨晩、帰宅途中に携帯が震えた。
ディスプレイに表示された名前を見て、思わず「おや?」と思った。
着信は高校時代の親友で、今では年に数回メールでやり取りをするような関係だった。
彼は医療系の仕事を目指しており、高校卒業後1年間の浪人生活を経て、地方の短大に入学した。
「絶対にやりたい仕事なんだ」
高校時代の帰りの電車の中で、よくお互いの将来を語り明かした。
自分も詳しいわけではないが、、医療関係の就職というのは本当に難関なものであることくらいは理解している。
彼が目指す仕事には国家資格が必要で、とにかくそれが最初の関門なのだと熱心に教えてくれた。
ここ1年間は俺が仕事を始め、彼も本格的に勉強に本腰を入れ始めたことで互いの連絡も希薄に。
ついには、俺が今年の正月に送った年賀メールにも返信は来なかった。
高校の時から電話なんて滅多によこさないタイプの奴だったので、何かしらあったに違いない。
緊張しながら俺は携帯に耳を傾けた。
こういう時は相手が喋る前に牽制するのが手である。
「もしもし?あ-すいません、間に合ってますんで。暖かくなると変な人が増えるみたいで困ってるんですけど」
「はぁ?おい、元気にしてるか?」
「あの、下着の色とか聞かないでください」
「うはははは!」
「……ん、元気そうじゃん」
「まぁ、そこそこね。お前も元気そうで良かった」
「毎日這い蹲って生きてるぜ」
「あのさ、受かったから国家資格。あと、卒業も決まったから。その報告」
不器用に言い放たれた彼のその言葉の意味を理解するまでに、数秒の時間を要した。
凍てつくような夜風が俺の戸惑いを現実に変えていく。
「まぢで?」
「マジマジ、激マジ」
「うっそ-ん」
「本当だってば」
片手で自転車を押しながら帰路を辿る自分の足が地に着いた心地がしなかった。
睡眠不足の体が徐々に高揚していくのが分かる。
まるで自分のことのように嬉しかった。
「……おめでとう」
気がつくと、口から滑り出た言葉それだった。
意識せずに心の底からこの言葉を言えたのは、生まれて初めての気がした。
日本語ってのは何でこう、口に出すとくすぐったいんだろう。
「泣いていいんだぜ-」
「泣くわけね-だろ、こんなことで」
ほんと、ばっかじゃね-の?
そんな風に呆気なく言い返すもんだから、こっちが泣きそうだって-の。
その後は、これからゆっくり就職先を決めたいということや、
今度短い期間だけど、こっちに帰ってくるというので祝勝会をやろうということなど色々話した。
日々の蓄積された疲労を忘れさせてくれるようなワンダ-な出来事でした。
自分にとって大切な人が何かを成すことがこんな喜びを与えてくれるものなのだと、改めて実感した気がする。
あの時、夕焼け色に染まる電車の中で語り合ったことが少しずつ近づいてきたのかもしれない。
歩み始めた足はまだ止まっていない。知らず知らずにここまで来た感覚だ。
何が正しいのか、分からないことだらけで手探りだけど、もう少し先まで行ってみるかな。
途中で疲れたら少し休憩するのもいいだろう。
どこか自分が見たかった景色が見える場所に辿りつくまで進んでいこう。
そこに自分のやりたいことがあると信じて。
22歳の春が、来る。
ディスプレイに表示された名前を見て、思わず「おや?」と思った。
着信は高校時代の親友で、今では年に数回メールでやり取りをするような関係だった。
彼は医療系の仕事を目指しており、高校卒業後1年間の浪人生活を経て、地方の短大に入学した。
「絶対にやりたい仕事なんだ」
高校時代の帰りの電車の中で、よくお互いの将来を語り明かした。
自分も詳しいわけではないが、、医療関係の就職というのは本当に難関なものであることくらいは理解している。
彼が目指す仕事には国家資格が必要で、とにかくそれが最初の関門なのだと熱心に教えてくれた。
ここ1年間は俺が仕事を始め、彼も本格的に勉強に本腰を入れ始めたことで互いの連絡も希薄に。
ついには、俺が今年の正月に送った年賀メールにも返信は来なかった。
高校の時から電話なんて滅多によこさないタイプの奴だったので、何かしらあったに違いない。
緊張しながら俺は携帯に耳を傾けた。
こういう時は相手が喋る前に牽制するのが手である。
「もしもし?あ-すいません、間に合ってますんで。暖かくなると変な人が増えるみたいで困ってるんですけど」
「はぁ?おい、元気にしてるか?」
「あの、下着の色とか聞かないでください」
「うはははは!」
「……ん、元気そうじゃん」
「まぁ、そこそこね。お前も元気そうで良かった」
「毎日這い蹲って生きてるぜ」
「あのさ、受かったから国家資格。あと、卒業も決まったから。その報告」
不器用に言い放たれた彼のその言葉の意味を理解するまでに、数秒の時間を要した。
凍てつくような夜風が俺の戸惑いを現実に変えていく。
「まぢで?」
「マジマジ、激マジ」
「うっそ-ん」
「本当だってば」
片手で自転車を押しながら帰路を辿る自分の足が地に着いた心地がしなかった。
睡眠不足の体が徐々に高揚していくのが分かる。
まるで自分のことのように嬉しかった。
「……おめでとう」
気がつくと、口から滑り出た言葉それだった。
意識せずに心の底からこの言葉を言えたのは、生まれて初めての気がした。
日本語ってのは何でこう、口に出すとくすぐったいんだろう。
「泣いていいんだぜ-」
「泣くわけね-だろ、こんなことで」
ほんと、ばっかじゃね-の?
そんな風に呆気なく言い返すもんだから、こっちが泣きそうだって-の。
その後は、これからゆっくり就職先を決めたいということや、
今度短い期間だけど、こっちに帰ってくるというので祝勝会をやろうということなど色々話した。
日々の蓄積された疲労を忘れさせてくれるようなワンダ-な出来事でした。
自分にとって大切な人が何かを成すことがこんな喜びを与えてくれるものなのだと、改めて実感した気がする。
あの時、夕焼け色に染まる電車の中で語り合ったことが少しずつ近づいてきたのかもしれない。
歩み始めた足はまだ止まっていない。知らず知らずにここまで来た感覚だ。
何が正しいのか、分からないことだらけで手探りだけど、もう少し先まで行ってみるかな。
途中で疲れたら少し休憩するのもいいだろう。
どこか自分が見たかった景色が見える場所に辿りつくまで進んでいこう。
そこに自分のやりたいことがあると信じて。
22歳の春が、来る。
by togino_8020
| 2007-03-09 00:36
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